白十字キリスト教社会主義研究会

本会は、キリスト教社会主義を中心として、政治・経済・文化に関する現代社会のさまざまな問題について考えていくための研究会です。



本会は、キリスト教社会主義を中心として、政治・経済・文化に関する現代社会のさまざまな問題について考えていくための研究会です。とくに近代日本における思想運動の一つとしてのキリスト教社会主義の実証的な研究を行うと同時に、その21世紀的な可能性についても光を当てていきたいと考えています。

明治期日本における思想運動の一潮流として、キリスト教社会主義の存在は、ある種の矛盾を孕んだ魅力を放っているといえるでしょう。黒川貢三郎(1)の概説にあるように、「わが国の社会主義運動は、その揺籃期にあってはキリスト教社会主義運動が支配的であった」とされています。後に、「幸徳伝次郎と堺利彦によって平民社が興され、週刊『平民新聞』が発刊(一九〇三〔明治三六〕年十一十五日)」されるようになってからは、次第にマルクス主義派社会主義が大きな影響力をもつようになっていった」とされていますが、「それでも、キリスト教徒である安部磯雄や木下尚江は客員として、石川三四郎は社員として平民社の活動に大いに尽力した」のです。

キリスト教社会主義は、唯物的な「マルクス派社会主義」(ここでは、上述の黒川による用語を踏襲する)とは一線を画す独自の主義主張を表明しており、同時に、既存のキリスト教界に対しても批判的であったとされています。独立伝道者として知られる内村鑑三(2)もまた、キリスト教社会主義の雑誌『新紀元』第1号に「社会主義が暴徒の巣窟と成り了らんかを恐れたり」という一文を含んだ文章を寄稿しており、キリスト教社会主義への理解とともに、唯物論的な社会主義に対する批判を表明しています。以上のことから、社会主義と呼ばれる思想はけっして統一的な理論で説明可能なものではなく、歴史的条件のなかで、さまざまな文脈をもちながら構成されていったことが理解できます。いま、キリスト教社会主義について、21世紀の文脈を参照軸としながら読みなおしてみることは、これまでの政治、経済、文化をめぐる固定化された見方を相対化し、動的かつ複層的な、実践・行動に資する社会主義の理論を提示することにつながるのではないでしょうか。

本会の立ち上げ人の倉井は、イクトゥス・プロジェクトという学問・芸術の運動体の共同代表でもあります(3)。イクトゥス・プロジェクトは、政治的にはニュートラルな位置づけとされていました。本会は、よりアクチュアルなかたちで時勢にコミットすることを目指します。

本会は、2015年11月1日(日)、万聖節(諸聖人の日)に公式HPが公開されたことをもって設立記念日といたします。今後、各界の識者との連帯を試みていきたいと考えています。ご期待ください。

【引用文献】

  • (1)黒川貢三郎「『新紀元』に集うキリスト教徒たち」、『初期社会主義研究』第19号(初期社会主義研究会、2006年12月)
  • (2)内村 鑑三「新紀元の発刊を祝す」、『新紀元』第1号(新紀元社、1905年11月)
  • (3)倉井香矛哉「次世代表現者たちの小魚群をめざして-イクトゥス・プロジェクト-」、『福音と世界』(新教出版社、2012年1月)